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北海道八雲町で出会った世界を旅するデジタルノマドファミリー

2024.12.31

2022年の冬にウーフという取り組みを通じて、ニューヨークから八雲を訪れてくれたケンさんファミリー。世界各地を旅しながら、小学5年生のお子さんを育てている彼らが今年はワールドスクールポップアップ(以後WSPU)というプログラムの滞在先として八雲を再訪してくれました。

同じようにいろんな土地を巡りながら子供を育てている人たちが、現地での子供たち同士の交流や、学びの場を提供する目的で始まったこのプログラム。

地元の小学生たちと交流したり、八雲の歴史や冬のアクティビティを楽しんだり、餅つきやひな人形の飾りつけなどの日本の文化に触れたりと、充実した1週間を送った参加者の家族たち。

「そもそも旅をしながら子育てってどういうこと?」
「旅先で家族が集まって現地のアクティビティを体験、、?」
「なんで北海道の中でも八雲の街で?」

謎が多い今回のプログラム。滞在のレポートと、ホスト・ゲストへのショートインタビューを通じて、開催の背景や想いを伺いました。

参加者のスケジュール

八雲_デジタルノマドファミリー_スケジュール

「息子のリッキーがまた八雲に行きたいって言ってくれたから」
〜プログラム参加者インタビュー〜

今回のプログラムの参加者であり、ホストの赤井さんと一緒にプログラムのスケジュールを立ててくれたケンさん。お父さんが日本人で大阪の小学校に通っていたため関西弁と英語を流暢に話すケンさんに、今回のプログラム開催に至った経緯や八雲の街を訪れた理由をお伺いしました。

-そもそも、今回八雲に滞在することになった流れをお聞きしてもいいですか?

ケン:去年の冬にウーフというプログラムを使って、八雲に10日間ぐらい滞在させてもらいました。sentoのお手伝いをしながら、泊まらせてもらって。その時にシンフォニーの取り組みも見させてもらったり、ペコレラにも連れて行ってもらったり。ヨシさんの取り組みに、勝手にすごく感動したんです。息子のリッキーも初めて山にスノーボードに連れて行ってもらったりして。今年の旅のスケジュールを立てている時に、息子の口から「八雲にまた行きたい」っていう言葉があったんです。息子にもこの街は印象に残っていたみたいです。

-去年の滞在がリッキーの印象に残っていて、今年の滞在に繋がったんですね。

ケン:そうです。だから今年も最初の2週間ぐらいはウーフで滞在させてもらって。八雲に来ることが決まってから、ワールドスクールポップアップというプログラムを開催する準備をしていました。

-WSPUというのはそもそもどういったものなんでしょうか?

ケン:僕らみたいに子供がいて、色んな土地を移動しながら生活している人。そういう人たちは現地で子供が歳の近い友達を作ったり、現地の子供たちと交流できる機会が極端に少ないんです。だから僕らみたいな人たちが、旅先で子供たち同士で遊べる機会を作ったり、保護者同士の情報交換の場になるようなものを目指して元々は始まったプログラムみたいなものです。
ただ、あくまで同じような境遇の家族が集合しているような感じなので、観光ツアーなどとは少し違うのかもしれませんね。

-今まで日本国内では大阪や東京などでこのWSPUが開催されていたそうですが、今回の八雲での開催との違いはありましたか?

ケン:北海道の中でも決して大きくないこの街で開催して、ちゃんと参加者がきてくれるかな、?っていうのは正直心配でした(笑)。
だけどこの街では、東京や大阪や他のどの街でも体験できないことができるという思いがあったんです。今いるsentoとかシンフォニーとかペコレラとか。地域の人たちと関われる機会も都市部に比べて圧倒的に多いですし。
たとえ東京に1ヶ月いたとしても、僕らみたいに海外からきた人間が地域の人たちと関われる機会はほとんどないですから。他の海外からきた家族たちに「こういう日本の側面もあるんだよ」っていうのを見てもらいたかったのもこの街を選んだ理由の一つです。

-1週間のプログラムは今日でちょうど半分ぐらいが終わったかと思います。ここまでの日程で印象に残っていることとかってありますか?

ケン:初めて会う子供たち同士が、旅先ですぐに仲良くなって遊んでいる姿は、親からしたら何よりも嬉しいんですよね。子供がいながら旅をしている人間からすると、旅先で子供たちがどう過ごすかはすごく大きな問題だから。

-今回ケンさんは参加者でありながら、半分ホストのように1週間のプログラムを立てたわけですよね?プランをたてる時に意識したこととかってあるんでしょうか?

ケン:1つは子供たちの教育に繋がるもの。だから、その土地土地の歴史にまつわる場所に行ったり、その土地のものを食べたりとかは意識してプランを立てました。
あとは、旅先だけれど子供たちが心置きなく遊べるような場所。今回でいうとスキー場に行ったり、そり遊びをプランに入れたのはそういった思いからです。
あとは子供たちが遊んでいる間に、親同士がゆっくりコミュニケーションを取れるような場所。これもすごく大事な要素ですね。同じ悩みを持った親同士が話せるのは、とても貴重な機会なので。

-保護者の方たち同士が話している場面をプログラム中に何度も目にしたように思います。親同士ではどんなことを話していたんですか?

ケン:普通の生活を送っている人たちに話しにくいような相談とかが結構あるから、それを話していることが多いかもしれません。旅先で子供の教育はどうやってすればいいのか。「どういう体験をしてる?」とか、「このプログラムがよかった」みたいな情報共有もよくします。
あとは、自分たちが行ったことの無い国や地域に行った人たちの話なんかもすごく参考になりますね。どの国がよかった、とか。ここのエリアは危険だから行かないほうがいい、とか。いくらインターネットが便利な時代だからと言って、実際に現地に行った人たちの情報に勝るものは無いですから。

-子供たちが楽しめるプログラムでありながら、保護者同士が情報交換したり交流できる機会でもある。すごくいい取り組みですね。ゆっくりお話聞かせていただき、ありがとうございました!

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地域の内と外、どちらかじゃなくて両方にひらいていくために
〜プログラム企画者インタビュー〜

今回のプログラムのホストであり、「Yakumo Village」代表の赤井さん。宿泊事業やキャンプ事業などを通じて、海外から八雲の街に訪れる機会を増やし続ける赤井さんに、プログラムを終えての率直な感想や、今後の展望などをお伺いしました。

-ケンさんと話していたことと少し重なる部分もあるかもしれませんが、改めて今回のWSPU開催に至った経緯を教えていただけますか?

赤井:ケンさんが昨年、八雲に来てくれたタイミングで「八雲でもWSPUやったらすごくいいと思う」みたいな話になってからだね。街の色んなところを気に入ってくれたみたいだし、特にさむいべや祭りとかはすごく気に入ってくれたみたい。札幌雪まつりみたいな観光客も多いイベントももちろん楽しいけれど、その地域の人と関われるローカルのイベントにはまた違った良さがあるからね。

-今回のプログラムに限らずですが、八雲やsento周辺には常に海外から来た方がいる印象があります。率直に北海道の中でも決して大きくないこの街にこれだけ海外の方がいるのはどうしてなんですか?

赤井:いろんな背景があると思うけど、一つは単純に海外の人を八雲の街に呼びたい思いがあって。というのも自分自身、高校、大学と海外に出ていてその経験があるからこそ今の自分があるみたいな意識が強くあるんだよね。

-もう少し詳しく聞かせていただけますか?

赤井:地域で生きていると、どうしても価値観の近い人たちと会う機会が圧倒的に多い。だから広い視野で物事をみる、とか新しいことに挑戦する、みたいなマインドが生まれにくい気がするんだよね。人それぞれに人生があっていいから、それを否定することもできないけど、「地域」っていう大きな視点で見た時に、何かに挑戦したり新しいことをやっていく人がいないのは良い状況とは言えないと思ってて。ただでさえ人口も減って、産業が衰退していってると言われているわけだから。

僕はシンプルに新しいことに挑戦していきたいし、それを一緒にできる仲間を常に求めてる。けれど、それを地域の中だけでやっていくのには限界がある。
けど、そんな土地に文化も言語も違う人たちが入り込むことで、地元の人たちの刺激にもなると思ったんだよね。「こんな考えを持った人もいるんだ」とか、「こういう将来の選択肢もあるんだ」っていうのを自分たちの肌で直接感じて欲しい。
結果的に地域の人たちの価値観が広がったり、いわゆる多様性みたいなものが広がって、何か新しいことに挑戦したりする人が少しでも増えていったらいいな、って。
そんな思いから、ヘルパーとして海外の人を積極的に受け入れたり、ウーフっていうサービスを使ってお金のやり取りをしなくても八雲に滞在できるような仕掛けをしてる。

2つ目の理由としては、海外から来た人が八雲でお金を落とす仕組みをもっとつくれれば、雇用も生まれるし、地元の人たちが今は価値がないって思ってるものも価値に変わる希望があって。
八雲の自然や一次産業の素晴らしさは、地元の人たちからしたら当たり前だから、そこに価値を感じてる人って圧倒的に外からくる人たちなんだよね。だからこそ、それらを外から来た人たちが楽しめる仕組みを作ることが出来れば、地元の人たちもより俯瞰して街をみるきっかけになったり、自信にも繋がると思うんだよね。

そこにプラスして、せっかく来てもらうなら、日帰りじゃなくてこの街に泊まっていってほしい。一緒に飲みに行ったりしたいからね(笑)。

-ちょうどそれは今回の参加者のケンさんも言ってました。東京に1週間いても地域の人と関わる機会ってほとんどないけど、八雲では地域の人との関わりしかないって。

赤井:そうだね。八雲は良くも悪くもわかりやすい観光商品みたいなものがないからこそ、地域の人たちが普段から触れているものを海外の人たちにも楽しんでもらうパターンが圧倒的に多いからね。地域の人たちと外から来た人たちを繋ぐ役割になれたらいいな、って思ってる。

-なるほど。ただ、地域の人と海外の人たちの間に入ることって言葉以上に難しいことじゃないですか?文化や言語の違いは、地元の人たちからしたら驚いたりすることもありそうですし。

赤井:もちろんそういう意味での難しさはあるね。だからこそこういう活動をするために、地域の外にひらいていくだけじゃなくて、地域の中にもひらいていく必要があると思ってる。宿を作ったり、コンテンツを作ったりして少しずつ地域の外には開けるようになってきた。けれど、まだ内側の動きはそこまで作れてないような気がしてて。だからこそもっと、地域の中にいる人たちが関われる機会を作ったりすることが大事だな、と。

-外から人が来てくれるだけでも上手くいかないし、関われる人が減っていく地方では中の人だけで全てを完結させても続かない。むちゃくちゃ難しい内と外のバランスですね。。
ホストとして受け入れたプログラムが一旦終わりましたが、正直どうでしたか?

赤井:そうだね。もちろん課題はたくさんあるけど、満足度的にはすごく高いんじゃないかなと思ってる。
お金だけではないそれ以上の価値をすごく感じた1週間だったね。ホストとかゲストとかっていう関係性以上に、僕らも楽しませてもらったし学ばせてもらった。こんなことをいうのもあれだけど、もっと色んな地域でこういう取り組みがあったらいいのにって思ったね。
今回、地域のボランティアとして梅村庭園のひな人形の飾り付けのボランティアに参加したんだけど、ああいう体験も参加者にはとても反応がよかった。地域からしても人手が欲しいところってあると思うから、そういうのにもっと参加してくれたらいいなぁとか。

-個人的なことでも構いません、赤井さんの中で印象に残っていることがあったら教えてください。

赤井:なんか、子供たちって雪があればどこでも遊べるんだなっていうのは冗談抜きで感動したね(笑)。それ以外何もいらないし、ほんとに何時間でも遊んでるし。これもさっきの話に繋がるけど、地元の人からしたら雪が多いって大変なことしかないって思われがちだけど、ああやって全力で楽しんでる子供たちを見ると、雪ってすげえ、に変わるからね。

-今回のツアーはケンさんと赤井さんが相談しながら事前にある程度決めたそうですね。プログラムを作る上で赤井さんが意識していたことってありますか?

赤井:これは今回だけじゃないんだけど、スケジュールをガッチリ決めすぎないのは意識したかも。というのも、僕らの予想以上に何かを楽しんでくれたりすることがよくあって。それって僕らにとっても「この人たちはこういうものに対する興味関心があるんだ」って勉強にもなるし。それがもしスケジュールをギチギチにしちゃうと、楽しみが半減しちゃうからなるべく融通が利くような設計にはしてたかな。
ツアーの中で、シンフォニーで子供たちがキーホルダー作りのワークショップをしている間に保護者の方たちはシンフォニーの中を案内してもらう時間があったんだけど、それはこっちが想像していた以上に好評だったみたい。そもそもプログラムの中にあの時間を入れたのも、ケンさんが昨年ここに来た体験がすごくよかったって言ってくれたから。

-逆に課題点や反省点みたいなものってあったりしますか?

赤井:地元の子供たちと関われる場は今回がほとんど初めての取り組みだったから、満足度ももちろん大きいんだけど、もう少し改善の余地はあるだろうな、って今は思ってる。自由なのはもちろんいいことだけど、自由すぎるのも子供たちからしたら難しいと思うんだよね。もちろん言語の壁もあるから、ただ自由に遊んでいいよ、ってしちゃうと英語話せる人同士、日本語話せる人同士で集まっちゃったりもするし。
だから、ある程度枠組みはこっちでつくって交流できる場を提供できたらよかったな、と。運動会とかはそれに近いことができたとは思ってる。紅白にチームを分けたことでチーム内での交流とかがあったのは見ていてすごくよかったし。

-今後の動きとして、考えていることはあるんですか?

赤井:もう少し街ぐるみでこういったプログラムが作れるようになったらいいな、という思いはあるかも。街の行事に合わせるとか、プログラムに合わせて街のイベントを企画するとか。それが、滞在日数の延長とか受け入れ人数を増やしたりすることに繋がると思うから。
あと今回、我々が提供できるもの以外にも餅つき体験をしてくれた千葉さんだったり、ボードゲームナイトでボードゲームをたくさん持ってきてくれただいじゅんさんとか、けん玉で楽しませてくれたコナカさんとか、色んな人たちがそれぞれ得意なことを持ち寄って関わってくれた感じがすごく嬉しくて。地域の人たちの活躍の場が作れて、かつ外から来た人たちが楽しんでくれる、みたいな構図はすごく理想だなって。
最終形態としては、場所だけはこっちで用意してそれぞれのコンテンツは地域の人たちがそれぞれ分担して今回みたいなツアーが組めたりしたらベストかもね。俺は皆んなを向かい入れて「じゃあいってらっしゃーい」みたいな(笑)。

-関わる人がどんどん増えていって、色んな人で分担してどんどん街が楽しくなっていくのは確かに理想かもしれませんね。今日はありがとうございました!

さいごに

「バケーションをしてると思われることもよくあるんですけど、僕からしたらそんな感覚は全くないんです。これは僕らの生き方だと思うんです。僕らの家族は色んな土地を巡りながら子供を育てるっていう生き方をピック(選択)しただけなんです」

インタビューの中でそう語るケンさんの言葉は、たくましくありながらそれでいて柔軟さを強く感じました。人と違う生き方を選択しながら、それでいて他の選択を否定するようなことをしない。参加者の皆さんから強く伝わってきたのが、たとえまだ幼い子供だとしても自分の選択は自分でする、その意思決定を親は尊重する、ということ。

全力で雪と遊び、地元の子供たちと豆まきをし、時には言い合いになったり、うまくいかないことがあったり。

参加者の子どもや、その保護者の方たちは文化も言語も違う日本の八雲という街をどうみていたのでしょうか。またいつか、何かの機会にこの街に戻ってきてくれたり、この街での出来事を思い出してくれたりしたら嬉しく思います。

<ライター:長崎航平>

写真の説明はありません。

2001年生まれ。長野県上田市出身。
車で日本国内を回る旅の途中で八雲に滞在。
柴犬とエビチリが好き。
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当初2ヶ月の予定だった北海道滞在は気づいたら4ヶ月になっていて。

そろそろ北海道からも脱出せねばと南下してきた函館で、「八雲に面白い人がいるから会ってきなよ」と言われ、辿り着いたのが八雲に来たきっかけ。南下してきた道のりを再び北上して、10日ほど滞在させていただきました。

海なし県で生まれ育った自分には、海と山が織りなす景色はとても新鮮で。それでいて、冬場の農民の収入として木の切れ端を使った「こっぱ人形」なるものが地元にもあるため、八雲の木彫りの熊はどこか懐かしくて。
街を好きになる要素としては十分すぎるぐらいでした。

また来たいと思う土地だからこそ、気になる場所には回りきらず、また来る理由を残してきました。

またすぐゆきます!